ホームレス〜ニューヨークと寝た男〜
日本でホームレスといえば、
路上生活をし空き缶を払い生活費を稼ぐ。
概ねそんなイメージだと思う。
けれど、このドキュメンタリー映画に出てくるマークは違う。
元々モデルをやっていて、今はフォトグラファーとして生計を立てている。
寝泊りはとあるマンションの屋上。
以前友達に部屋を借りたときの鍵を未だに持っていて、こっそり侵入するのである。
エントランスの扉を開け、建物内に足跡が聞こえないかを入念に確認する。
少しでも足音が聞こえれば建物から一度退散する徹底ぶり。
やっとの思いで到着した屋上にはビニールが置かれていて、それらに包まって眠りにつく。
仕事動画であるカメラやPCはジムのロッカーに預けている。
ジムのロッカーはトレーニングシューズを入れたりするものだと思っていたが、家を持たぬマークにとっては金庫代わりにもなるのだ。
マークは街を歩く美女に声をかけ、写真を撮っては名刺を渡す。
いい写真が撮れたらモデルを事務所に売り込むエージェントみたいな仕事をこなしたり、
ファッションショーのバックヤードでフォトグラファーとしての仕事をこなしたりもする。
かと思えばエキストラではあるが、映画の撮影に参加したりもすれば、1日だけ舞台にも立ったり、
僕が思っているホームレスではまるでなくて、
自分の能力を切り売りして生きていた。
シャツを着て、コートに身を包んだりと身なりには気を使っているので、彼のことをだれもホームレスだとは思わない。
一見、好きなことを仕事にしているように見えるが、マークは幸せそうに見えない。
本人に曰く、今までだれにも愛してると言ったことがないらしい。
女性にはモテはするが、
自分が好きになる人とは縁遠い人生だとも。
仕事はヨーロッパでカメラマンになろうとするも上手くいかず、一文無しでニューヨークに帰ってきた。
僕の判断は間違ってたのかな。
人生に迷ってばっかりだ。
とマークは屋上で呟き、
タバコを吸う姿は哀愁に満ちていた。
映画の終盤に、
マークの誕生日会の様子が映る。
昔マークに助けられたという友人が言う。
失敗が多いほどチャンスは訪れる。
彼はいずれ成功するよ。
グッときた。
愛してると人生で誰にも言ったことがないと
マークは言っていたけど、
多くの人が誕生日会に集まって、
素敵なことを話してくれる友人もいる。
本人の望むものは手に入っていないのかもしれないが、
充分に愛し愛されているように僕には見えた。
ニューヨークに行くことがあれば、会ってみたいなぁ。